新生HAPPY ばーぐ DAY!(スパゲティ)
ICUの正門から北に歩いて五分、西野交差点にその店はある。ちょっと美味しいもの好きのICU生なら大抵知っている『HAPPY ばーぐ DAY !』だ。Googlemapの写真とその名前から察されるように、もともと此処はハンバーグ屋だった。そのあとはハンバーガー屋、その次がカレー屋、その次は旨い肉を出す呑み屋で、この2月4日からスパゲティ屋に変わった。これは僕が大学に入ってからの3年そこらで起きたことだ、その間店主が変わったわけでもない。少し何を言っているのかわからないだろうと思う。
これだけ目まぐるしく形態を変えているのは収益性を求めてのことでもあるが、なによりマスターの気質が大きいだろう。本業はミュージシャンであるけれども、ひどく真面目だ。カレー屋の時、初めはどうということもなかった味が1週間ごとにみるみる旨くなっていって、すっかりその姿勢に惚れこんでしまった。かといってこちこちの職人気質というわけでもなく、自分では「人づきあいが苦手」とはいうものの、ビニール製の暖簾をくぐればいつも汗まみれの顔をはにかませてくれる。
そんなマスターが「今度はスパゲティ屋を始める」だなんて言うものだから、昨日今日とプレオープンするなり連日で訪れてしまった。
メニューは
①油そば風スパゲティ bimbo
②シソとトマトのスパゲティ siso
③昔ながらのナポリタン napori
サイズは小、中、大と別れていて、中で780円。「ラフさを意識した」とのことで中でも結構量が多く、食が細めの人なら小でも満足感は得られると思う。
僕は油そば風のbimboを中で頼んだ。これは小松菜と焼き豚を具材にした2.2mmの極太麺を塊ごと取ったラードで炒め、焼き豚のタレと共に焦がし焼いたものだ。どうだ、この文章だけで旨そうだろう。実際旨いのだ。
てらてらになるまでラードが絡みついたスパゲティを噛み締めれば、焼き豚の旨味と甘さが口いっぱいに広がる。自家製の焼き豚に炭水化物を載せ、タレで砂糖を積み、北京鍋と業務用バーナーの高温でメイラード反応を起こすと同時に、若干のクリスピーな食感も与えている。強烈なジャンクフードだ!
ただ油と炭水化物とたんぱく質をスタックする、というだけの旨さならぐうたら、武蔵家といったICU近辺のラーメン屋の方が、スープの油分だけ上だろう。初見ではちょっとこれ食えないだろう、と思うくらいにギトギトに油の浮いたスープをすすりながら大盛りの麺をすっかり腹に詰め込んでしまうのにはなんとも麻薬的な快感がある。
(わざわざ家を太字で書いたのは家系警察を退けるためだ。ICUには家系警察というのが居て、武蔵家の家を屋と書くと5秒でtwitterのリプライが飛んでくる。「修正しろ!」)
たしかに、家系ラーメンは上のようなカルト的僧兵を養成してしまうまでに旨い。
しかしこの料理の骨頂はそういった文化的貧民のムーブにあるのではない。ラードがたっぷり入ったスーパーハイカロリーなはずのこのスパゲティを、罪悪感なしに食わせてしまうところにある。
我々がジャンクフードを食べるときは大抵、健康や体形のことなどは一旦頭の片隅に押しやる必要がある。ちょっと最近風邪気味だし下腹も気になるし、家で野菜炒めでも作って食べていようか...そう言って体がささやく声を我々は黙殺し、「溶き卵ラーメン大盛り」のボタンを押す。しかしそうして、あの真っ茶色になるまで煮込まれた豚骨スープを極太麺と一緒に、場合によってはライスもつけて掻っ込むとき、何か心の隅でチクチク痛むものがないだろうか?自動ドアを出て外の冷気に身を晒すとき、「やっちまったな...」という罪の意識が芽生えてこないだろうか?
その罪の意識こそがまさにジャンクフードから我々を引き離さないものではある(キリスト教がなぜここまで世界を席巻したか考えてみてほしい)、しかしそれが僕たちを苦しめることも事実だ。好きなだけ、何の心配もせずに、思う存分特盛ラーメンの残り汁でおじやをしてしまいたいと思わないだろうか?あと1cm指を動かせば特盛券が銀の受け皿に吐き出されるところをぐっとこらえ、すぐ左の大盛り券に切り替えた経験は?せめて自分を慰めるためにほうれん草をマシたことは?
きっとみんなあるだろう。そうした葛藤をHAPPY ばーぐ DAY!は打ち払ってくれる。冷静に考えれば健康に障るであろう量の油も、「これはいけない」と思うギリギリの量で留めてある。私は完全に堕ちたわけではありません、品の性を保っております、という主張だ、「清楚系風俗嬢」のお触書だ。
驚くことにこれは食えてしまう、特盛に当たる大を頼んでも食えてしまうものだ。質の良いラードは我々が感じがちな「豚臭さ」「油っぽさ」を弱め、焦げたキツめのタレから弾けるアロマがジャンクフードにつきものの「飽き」を忘れさせる。そして食後感も決してあの、油が胃の中で攪拌されている気だるい満足ではない...「うまかった」という感覚を味わうだけの覚醒、脂と炭水化物を貪ったにも関わらず陶酔ではなく覚醒、この感覚はちょっと他では味わえない!みんな是非行ってみてくれ、感想を聞かせてくれ!損はしないはずだ。
香港中国旅行6日目
11/24
10:54
朝から今後の余地を考えて、こんな時間だ。とりあえずやることがある。
1.歯磨き
2.食事
3.航空券の手配
4.日記の打ち込み
5.写真の整理
12:46
中国人の男と喧嘩してしまった。ホステルの洗濯機に前の人の服が入っていたので、取り出して自分の服を洗ったのだが、取り出して置いた台が汚くて気に入らなかったらしい。俺の時間を無駄にした、と怒鳴っている。しかし、見た感じそう汚そうには見えなかったし、そこまでの清潔さを求めるなら一泊690円のドミトリーになんて泊まるべきではない。その場所にふさわしい衛生基準というものがある。
それで彼は、僕の服を途中で取り出して自分の服を洗っている。僕の方だってもう一度コインを入れて洗濯機を回す時間と金を無駄にされたのだ、と言い返したら、あとは水かけ論だ。今になってみればどちらが悪いというよりも、どこまで人に期待するか、という性格の問題だった。最後にはお互いに中国語と日本語でまくしたて合い、向こうが「ここは中国だ、中国語で話せ、さもなければこの国から出ていけと言われたところで頭に来て、クールダウンのためにフロントに相談に行った。なんだこの排外主義者め、一生ブロック経済やってろ。フロントのお姉さんに聞いたところ、なんでも彼は長いこと滞在していて、しばしば人と喧嘩するそうだ。人の良さそうな彼女は「人はみな違う考えを持っているから、お互いに受け入れ合う必要がある。こういうときは論争しないで、温和にいきましょう。」というアドバイスをくれた。その通りだ、僕が間違っていた。すぐに洗濯場に戻って、彼に謝る。すると「俺の時間と金を返せ」と少し涙ぐみながら言ってきた。そうだよな、喧嘩ってお互いに心に負担がかかるものな。申し訳なかった。
僕の悪かったところはすぐさま闘争の態勢に入ってしまったことだ。向こうの殺気を感じて、Fight or flightの動物的な判断をしてしまった。次からは(多分明日か明後日くらいには似たようなことは起きるだろう、これは旅だ)温和な表情を保って対応したい。汚い(らしい)台に人の洗濯物を置いたことについては、感覚の問題だから次に生かせる反省はできない。丁寧にやりすぎると問題になることもある。
良かった点は、破綻(つかみ合い)を迎える前にしかるべき人に相談できたことだ。僕もいくらか成長した。
朝からこの問題で時間をつぶしてしまったけれど、得るものはあった。
13:39
やはり、何がいけなかったかというと表情かもしれない。彼に出会うなり異変を感じて、眉間にしわを寄せていた。あそこで笑みを浮かべながらどうしたんだい、と話しかけていれば結末はかなりましだったと思う。今からもう少し笑顔で話しかける。
14:40
宿の近くの料理屋に入る。灰色のテーブルクロスが敷かれていて、けっこう高級そうだ。内臓の炒め物らしき料理とご飯を頼んだが、食べられずに出てきてしまった。冷えた内臓に青ネギが大量にかかったものが出てきて、冷えた生臭さがどうしても受け付けなかった。多分主菜として食べるべきではなく、複数人で頼んですこしだけ食べるものなんだろう。これから四川博物館に行く。
18:35
四川博物館に行くつもりが、隣の公園をブラブラしてしまった。しかし、散歩しに来ている家族たちの写真がかなりの枚数撮れてうれしい。会心と言えるものもいくつかある。大ぶりのリンゴの皮をむくおばあさんは本当に素敵で、向かれたりんごのごつごつとした表面が中国のおおざっぱさをよく表している気がした。
腹が減ったので公園の出ぎわに芋を買って食う。台車に積まれた焼け石の上にずらりと並んだ芋は大きさがあまりにもばらついていて、カボチャ並みのものもあれば日本の芋と変わらないものもある。おばあさんが使い込まれた木の棒と分銅を天秤みたいにして、うまいこと芋の重さを計ってくれた。なるほど、こうやって売るのか。規格がおおざっぱならおおざっぱなりにみんな何とかする。肝心の芋は言葉が通じないせいで、ラグビーボールの子供みたいなやつを買わされた。
食っている間におばさんが病院のパンフレットを渡してきた。その手つきに何か見覚えがあると思ったら、水切り石の投げ方だ。手首のスナップをつかった最小限のエネルギーで手当たり次第に渡してゆく。
そして今また陳麻婆豆腐店に居る。ザーサイと豚肉の炒め物とタンタンメンを頼む。小さな茶碗に入ったタンタンメンが出てきた。花椒をこれでもかというくらい入れており、うまい。本当に好きだなあお前ら。炒め物も大変うまい。ピーナッツの風味と豚肉が卑怯なくらいに合う。驚くことに水気はさっぱりなかった。ザーサイに火を通すのは本当に難しく、ちょっと間違えると出てきた水分で出来損ないの料理が出来てしまう。けれども、さっき食べたいもがお腹の中にたまっており残してしまった。店を出て帰ろう。
19:41 バスの中で
中国は何か違う!タイがあまり好きになれなかったのでアジア旅行は控えていたのだけれども、これならもう一度来たい。よく考えればタイが好きになれなかったからアジアは気に入らない、というのはおかしな話だ。
バスの降りる駅を間違えたので歩きながら書く。二日前には恐ろしかったこの道も今はどうということもない。
香港中国旅行5日目
11/23
11:06 電車内
今日は朝から坊さんの自慰を見せられてしまった。こう書くと奇妙だがこうとしか言いようがない。あの後宿について、ドミトリーで横のベッドがチベット仏教の修行僧だったんだ。年は15才位に見えて、無邪気に僕に話しかけてくる。彼は英語は話せなかったけれど、その屈託のない笑顔にすっかりガードが緩んで、打ち解けた。プレゼントだといって、数珠をくれた。僕も昔寺で修業したことがあったので、何となく親近感を覚えた。
今朝ドミトリーで10時くらいに目が覚めると、隣のベッドからしきりに翻訳ソフトを使って「友達になろう」「日本が大好き」などと呼びかけてくる。蹲踞の姿勢でこちらにスマホの画面を突き出してくるのが少し目障りだったので、彼のベッドに腰かけて話していたら突然僕の股間を触ってきた。なんて失礼なことをするんだ、と思ってにらみつけると、彼が自分の一物を出してしごいていることに気が付いた。
うわっ、と声が出てしまう。なぜそんなことをしているんだ?しかも、でかい。起きた時から蹲踞の姿勢で尻のあたりをいじっていることには気づいていたが、てっきり尻が痒いのかとでも思っていた。多分僕が寝ぼけていただけで、起きた時からずっと致していたんだ。だとしたら致しながら僕に話しかけてくる?何故?とにかく今、目の前でチベット仏教の修行僧が蹲踞の姿勢で黒ずんだ高級バナナをしごきあげている。情報量が多すぎて対応できない。
そうして固まっていたら、20秒ほどで彼は射精した。ベッドの上に広げてあるティッシュの上に吐き出した。期せずして最後まで監督してしまった...なんでこんなことが起きるんだ。15才位だったから気持ちはわかるけどさ。超えちゃいけないライン考えろよ。
今はシングルルームでこれを書いている。怒ったが、全然反省していない様子だった。そのあとも僕と話したそうにちらちら見てくるので、フロントに言って部屋を替えてもらった。もらった数珠は埃まみれのベッドの裏に捨ててきた。
昼間は青城山という道教の聖地に行ったが、キリスト教専攻のぼくには特に面白いところもなかったので撮れた写真を載せる。
中国のトウモロコシはでんぷんしつで、もちもちねばねばしている。あまり甘くない。
修学旅行の中学生たちが写真を撮らせてくれた。みんなすごくいい表情だ。大人は恥ずかしがってなかなか撮らせてくれないけれど、学生は乗ってきてくれる。
リンゴ飴もおいしい。日本のものよりリンゴは酸味が強く、砂糖の甘味に合う。
18:48
陳麻婆豆腐店に来た。おそらく本店だ。おばちゃんがビンに入った中国茶を雑に注いでくれた。
メニューは中国語しかないのでよくわからない。麻婆豆腐を白飯と共に頼んだ。「なんでもおすすめをくれ」とも言ったが「味覚は人それぞれなんだからそんなことできっこないわよ、あんたバカね」くらいのことを言われる。
麻婆豆腐が来た。花椒の匂い。湯気が立っていない。冷えているのか?ほどなくして白飯が来た。一見して見た目は悪い。ひき肉は焦げついていて、食欲がそそられる外見ではない。しかしこの花椒の匂いが凄まじい。俺を食えと訴えかけてくる。レンゲでひとすくいして口の中に入れると弾けるように口の粘膜が刺激される。口の中が爆発したみたいだ。辛いんじゃない、ホアジャオの針みたいな香味が味蕾も喉も何もかも突き刺してくる。湯気が立っていないのはバカげた量のラー油で表面がコーティングされていただけだった。ご飯にのせてもうまい。豆腐とひき肉のうまみで飯が進む。しかしつらい!蓮華のひとすくいごとにエイ、と気合を入れて食わねばならない。こんなに一口一口に気合が必要な食事なんて初めてかもしれない。あんまり刺激が強くって、氷を店員さんに頼んだ。おばちゃんが固まりをぶちくだいたような氷を持ってきてくれた。口の中に急いで入れ、すぐに麻婆豆腐を食う。そうすることを強いられている。陳健一が草葉の陰でほくそ笑んでいる画が目に浮かぶ。
僕は中国に来てよかった、成都に来てよかった。これで全て報われた。涙を流しながら、地団駄を踏みながら食う。そうしないとこの幸せを受け止めきれない。多幸感という言葉でしかこの気持ちは表現できない。今こうして書いていてもあの旨さに自分の文章が見合っていないと感じる。全然表現できていない。とにかく僕は今まで生きていてよかったし、もう面白いことはし尽くして人生は砂っぱらだなんて思っていたけれど、まだまだこの世に僕の知らない喜びはいくらでもあるということを陳麻婆豆腐は僕に教えてくれたのだった。
香港中国旅行4日目
というのは、たしかにAlipayやMobikeなど目新しいサービスは多いが、目の前にしてみれば日本のsuicaと変わらないし、現金も受け付けてくれる。mobikeも便利だが舗装の雑さや人ごみのせいでそこまで移動時間が短くなるわけではない。電気街もバッタものが多く薄汚れた街並みで、自前で付加価値を付けられるようになるまではまだ時間がかかる。『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の中でスコット・ギャロウェイが主張するように、商品・サービスに大きな付加価値をつけるためにはそのブランドにセクシーさが必要だ。クジャクの羽のように、強烈なセックスアピールを持たねばF40にバカげた値段はつかないし、人が相場の2倍もするスマートフォンを買うことはない。深圳のoppo直営店は入り口の真正面の巨大モニター、木を取り入れたインテリアとガワだけはそれっぽく作られているが、店員のセンスの無さはどうにも隠せない。少なくともApplestoreの店員は絶対にこんなダサいシャツインはしない。これではoppoのスマホを買って、自分がより性的魅力にあふれる人間になったとは思えない。
香港中国旅行3日目
11/21
コストカットの精神はここにも受け継がれている。まず初めに、ワカメとあさりのスープ(90円)をいただく。色は薄い乳白色。一口すすると、磯の香とあさりのだしがキいて、うしお汁だこれ。完全なうしお汁。いやうまい、しかしイタリアンではない。
いつものサイゼリヤのサラダの上に白赤のカラフルな寒天が乗っている。いや、これもどう考えてもイタリアンではない。この寒天、よく缶詰98円で売ってるやつやん。食べてみると意外とうまい。いつもの安定感のあるサイゼリヤドレッシングが寒天に絡まり、甘味×甘味のジャンキーなサラダになっている。しかしイタリアンではない。
香港中国旅行2日目
香港1日目
16:42 香港行き機上にて
チョコモナカを食べた。あずき入りチョコモナカを食べた。いやあずきチョコ入りモナカだった気もする。本当は純正のあずきもなかを食べたかったが、売り切れてしまっていた。僕も含めてみなここで日本的なものと別れを惜しむのだろう。ゴミを捨ててゲートへ向かう。
CAさんが牛肉と飯の一緒くたになったパックを給仕してくれる。目力のある、いかにも大陸人という感じの顔立ちで気が強そうだ。分厚いファンデーションで隠しきれなかった右頬のニキビが、そのせいで目立って見える。
20:35
まもなく香港に着く。この旅はうまく行くのか急に不安になってきた。なにせ香港から入って北京から出ること以外何も決まっていない。僕はいつもこうして無計画に始めて失敗する。計画を立てればすべてうまく行くというわけでもないのだけれども。"我々は皆、計画が何の役にも立たないことを知っている。しかしそれでも計画は必要である。" 飛行機の車輪が降りた。ちょうど僕の真下に車輪があるようで、えらく大きな音がする。フラップの音。翼が風を切る音が変わる。今思ったのだけれども、この旅はものを書く旅にしたい。やたらと動き回るには計画と気力が足りないし、それにこうしていると15歳に戻れるような気がする。ものを書いていると何も考えないでいられる。これを書いている間にランディングした。ナルゲンの水を飲んでからゆこう。
0:14